現場から帰った日のカメラロールには、似たような写真が何十枚も並びます。同じ角度、同じ距離、ほんの少しだけ違う表情。その中から残す一枚を決めるとき、たいてい指が止まるのは口角が上がっているカットです。リカイドの推し活編にある2択「推しの好きな顔は?」は、3,139人が答えて「笑顔」が87%、「真剣な顔」が13%でした。
推し活編100問を票の偏りが大きい順に並べると、この一問は7位。全1,000問で見ても37位です。推し活編には9割を超える結果がいくつもある中で、上位に食い込んでいます。


推しに頼まれている仕事は、だいたい「回復」です
同じ推し活編の数字を並べると、この87%は流れの中にきれいに収まります。「推しに求めるのは?」は約2,600人が答えて「癒し」が76%、「刺激」が24%。「つらい時の推しは?」では約2,900人の90%が「特効薬になる」を選んでいます。「現場のあとは?」も約2,900人のうち91%が「余韻に浸りたい」、「現場の日は?」は79%が「朝からそわそわ」でした。
推しは、生活の外側にある楽しみというより、消耗した分を戻す装置として扱われている。少なくとも回答の並びはそう読めます。その役割を担っている相手の顔を選ぶなら、笑顔が87%を取るのは自然な流れです。刺激を求めていない人たちが、張りつめた表情を第一に選ぶ理由は、たしかにあまり見当たりません。
ただし、この2つは同じ量だけ手に入る顔ではありません
ここで一度、選択肢のほうをうたがっておきたいと思います。「笑顔」と「真剣な顔」は、並べて選ばせる形になっていますが、目にする機会の多さがまるで違う可能性があります。
笑顔は、活動の種類を問わずどこにでもあります。挨拶、ファンサービス、雑誌の表紙、SNSに上がる写真。いっぽう真剣な顔を日常的に見られるかどうかは、推しが何をしている人かによって変わります。競技や演奏や収録の最中の表情が公開される人もいれば、完成したものだけが世に出る人もいる。後者を推している場合、真剣な顔は選びたくても手元に在庫がありません。
在庫という言い方には根拠があります。推し活編の「推しの画像は?」は約3,100人のうち81%が「保存しまくる」、「撮影OKの現場では?」も約2,700人の82%が「撮りまくる」でした。手元の画像フォルダが判断材料になっているとすると、そのフォルダはもともと笑顔に偏っています。カメラに気づいた人は、たいてい笑うからです。



「真剣な顔」を選んだ13%が見ているもの
少数派の13%を、ひねくれた選択として片付けるのはもったいないと思います。この選択肢を押す理由は、いくつも並べられます。
ひとつは、笑顔が自分たちに向けられたものであるのに対して、真剣な顔はその人自身のものだ、という区別です。ファンサービスの笑顔は嬉しいけれど、いちばん見たいのは仕事をしている顔だ、という立ち位置。推し活編の「推しとの距離感は?」で「雲の上でいい」が54%とわずかに上回っていることとも、方向は噛み合います。
もうひとつは、落差そのものが好きな場合です。ふだんゆるい人が集中に入る瞬間、話し方が変わる瞬間を見たくて追いかけている人は、実際にいます。この場合、選ばれているのは表情というより切り替わりのほうです。
笑顔が好きな人ほど、本人の前では固まります
ひとつだけ、数字の向きが噛み合っていない箇所があります。推し活編の「推しが目の前にいたら?」は約3,000人が答えて、「話しかける」が21%、「固まる」が79%でした。
いちばん好きなのは笑顔だと87%が答えているのに、その笑顔が実際にこちらを向く場面になると、8割が動けなくなる。矛盾のように見えますが、たぶん矛盾ではありません。好きな顔として思い浮かべているのは、自分に向けられていない笑顔のほうだからです。ステージの上、共演者との会話、カメラの向こう側。安心して眺めていられるのは、こちらが観測される側に回っていないときだけ、ということかもしれません。
好きな顔を直接聞くのは照れくさくても、2択にして当てさせるぶんには、いくらでも話せます。